2020年5月16日土曜日

「制限」の中で

せせらぎ28
 新型コロナウイルスによる感染拡大は、世界中で大きな影響を与えています。
 行動の制限、見えないウィルスという相手、いつまで続くかわからないという不安・・・。いつの間にか心身の負担も蓄積しているかもしれません。自分なりの対処法や今後の生活の在り方を改めて考えているという人も多いのではないでしょうか。

 また、新型コロナウイルスは、社会の在り方を大きく揺さぶっています。経済的な打撃、業務や教育などのオンライン化、医療や様々なシステムに迫られる見直しなどです。
 歴史を紐解くと、感染症は国の興亡にも大きく影響してきました。精神史を見ても、例えば、4世紀にローマ帝国でキリスト教が国教化されましたが、それも、当時流行った疫病が大きく影響していたようです。効果的な対処法もよくわからない中で、キリスト教徒は献身的に看病しました。また、人が亡くなった場合も、救済に基づく彼らの死生観に希望を見出した、ということが多かったようです。困難な中で見せる真摯な姿勢が新しい時代を開く力となったと言えるでしょう。
 大きな困難を抱えているとき、それは私たちのあり方を見つめなおす機会という面もあるのかもしれません。

 以前、病気で入院している患者さんに集団でアートセラピーを行ったときがありました。最初は「私は絵も下手だし、かくなんてとてもとても・・・」と尻込みしていた方でした。でも何かおもしろさを感じていたのでしょう。退院してからも、そのグループには通っていました。続けているうちに絵が変わってきました。花や植物の絵をよく描いていたのですが、生き生きとしてきたのです。その方がこんなことを語っていました。
「体力が落ちているので、あまり動けません。でも、それがよかったのかもしれません。前から、自然は好きでした。でも、こんなにじっくりと花を見たということはないですね。歩きながら、ああ、咲いているなあ、きれいだなあ。その程度でした。ある夜、花がかわいいなあ~と思ってずーっと見ていたら、花が『(私を)かいて』と言ってくれているような気がしたんです。じゃ、かかせてもらおうと思ったのですが、その時間はとても気持ち良いものでした。」

 よく眠れなかった夜。横を見ると、お見舞いの人がくれた花があった。
「そういえば、さっきもいた。ずーっとそばにいてくれていた。・・・・」そう思うと、何かいとおしさのようなものを感じたともおっしゃっていました。
 お互いに動かないという中で、何か通じる世界ができていったのかもしれません。


 制限を受けること・負担を抱えること、それはたしかに大変なことですが、だからこそ生まれてくる大切なものもあるのだろうと思います。
カウンセリングルーム(K)

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